2021年04月05日

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第1891例会

 

 

リーガロイヤルホテル広島

クラブフォーラム(がん予防啓発推進委員会)
「ウイルスと共生・共存―がんの発生・予防・診断・治療―リキッドバイオプシーの実践」

 

 

 

 

田原 榮一君

 

 

 それでは、今日の例会フォーラムでは、大変興味ある課題について卓話したいと存じます。ウイルス由来のDNAやRNAが,ヒトのゲノム(遺伝子情報)に取り組まれており、それらウイルス遺伝子がヒトの生態機能に重要な機能を果たしていること、しかもそれらのウイルス遺伝子異常ががんの発生と診断に関与すること、即ち「ウイルスと共生・共存―がんの発生・予防・診断―血液でがんを見つけるリキッドバイオプシーの実践」について概説したいと存じます。尚、皆様方に配布された卓話原稿の作成には、政岡プログラム委員長に大変お世話になりました。政岡委員長に心から深謝します。

スライド1
 ウイルスは、約40億年前「生物の誕生」とともに誕生したと考えられており、様々な生物や動物に感染し、そのウイルスがヒトに感染して、ヒトの進化とともにヒトにだけ感染するようになりました。
 「ウイルス」という語源は、「毒液」を意味するラテン語のvirus に由来しますが、それは、0.1umと細菌よりはるかに小さく、生きた細胞のみ感染する微生物であり、それぞれ特定のタイプが,それぞれの特定の臓器細胞に感染します。
 ウイルスには、RNA(リボ核酸)ウイルスとDNA(デイキシリボ核酸)ウイルスとがあり、それら核酸の遺伝子情報によりウイルスは自分の子孫を複製できます。前者のRNAウイルスの代表的なものは、RIが取り組んでいるポリオウイルスと現在我々を悩ましている新型コロナウイルスであり、後者のDNAウイルスには、エプスタイン・バー・ウイル(EBV)、子宮頸がんを起こすヒトパピローマウイルス(HPV)やB型肝炎を起こすB型肝炎ウイルス (HBV)等が含まれます。

スライド2
 ウイルス感染とがんとの関係を見ますと、がんの15−20%がウイルス感染に起因しています。即ち、DNAウイルスでは、エピスタイン・バー・ウイルEBVは、バーキツトリンパ腫、上咽頭がんを、ヒトパピローマウイルスHPVは、子宮頸がんを、それぞれ誘発させることが有名です。特に、B型肝炎ウイルスHBVは肝細胞がんの原因ですが、今日、素晴らしい抗ウイルス剤が開発されています。RNAウイルスでは、C型肝炎ウイルスHCVが肝細胞がんを、HTLV-1は、ヒト成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスです。尚、カープOBの
北別府氏が、ヒト成人T細胞白血病に罹患して、現在解説者として社会復帰されています。

スライド3
 ここで、新型コロナウイルスの起源に少しく触れて見たいと存じます。
新型コロナウイルスは、紀元前8000年ごろ原型ができ、その後、野生動物や家畜に潜んでいたと考えられています。現在ヒトに感染するコロナウイルスは4種類あり、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、そして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)です。1960年代、コロナウイルスは、カゼの原因の10-15%を占め、さほど注目されませんでしたが、わずか60年でSARS、MERSを経て今度の「新型コロナウイルス」に進化しています。新型コロナは、現在、変異株の拡大やワクチン接種が始まりましたが、最近、このCOVID-19の病原性は、後から述べます宿主のマイクロRNAの枯渇(こうかつ)によるという仮説があることを紹介しておきます。

次に21世紀に入り、ヒトゲノムの全貌が明らかにされ、驚くべき事実が発見されました。即ち、ヒトのDNAの大部分(50%以上)はウイルス由来であり、ヒトのゲノム進化や生体機能に重要な役割を果たしていることが明らかにされましたのであります。このことは、ウイルス感染が必ずしも病気の発症に繋がるわけではなく、ヒトゲノムに取り組まれたウイルス遺伝子が、後述するがん遺伝子やマイクロRNAの様に、機能遺伝子或いは遺伝子発現制御に利用されていることが解明されました。まさに、人類の進化はウイルスと共生・共存によるといっても過言ではありません。

翻って、毎日新型コロナ感染者数が発表される中、毎日2700人ががんに罹患しています。現在、コロナ渦で、がん検診率が減少し、進行したがん患者の増加が危惧されています。
 それでは、ヒトがんはどのようにして発生するのでしょうか?
がんは、遺伝子異常の病気であり、ヒトゲノムに取り組まれたウイルス遺伝子の「がん遺伝子」(細胞増殖を促進させる働き)、そして「がん抑制遺伝子」(細胞増殖を抑制する働き)、やDNA修復遺伝子等の複数の遺伝子異常が一つの正常細胞に累積してがんは発生します。一つのがんが、臨床検査で見つかる大きさ(約2cm)までに、10年から20年の長い自然史を持っています。言い替えますと、40歳すぎてがんが急増するのは、10-30歳代の生活習慣ががんの発生に関与しており、それは、禁煙等の生活習慣の改善によりがんを予防することを意味しています。加えて、がんは老化の一種であり、長生きするとがんが増えるのは、遺伝子異常の累積増加と免疫力の低下に基づくものであります。日本は、現在、「世界一の長寿国:となり、2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで死亡しています。そして、2025年度には団塊世代が後期高齢者になり「がん難民」が発生します。

スライド4 
そこで、がんは遺伝子異常の病気であるという実例として、
大腸がんの多段階発生のモデルを供覧したいと存じます
左側の正常な大腸粘膜に、APCという「がん抑制遺伝子」が欠失しますと、粘膜上皮が異常に蛇行し増殖するようになります。もし、それに、ウイルス由来のK-rasという「がん遺伝子変異」が加わりますと、腺腫が発生します。そして、そのまま腺腫を5-15年放置しますと、p53と言う「がん抑制遺伝子」の異常が腺腫内に起きてがん化します。即ち、大腸がんの発生には、少なくとも、3つの遺伝子異常が必要であることを示しております。
この様に、ヒトがんは、長い時間をかけて、複数の遺伝子異常が累積して発生してくることが明らかにされ、今日、がんの遺伝子異常に基づいたがん個別化医療が実践されています。

スライド5
 更に、遺伝性・家族性腫瘍について少し触れたいと存じます。ヒトがんの5−10%が遺伝性腫瘍であり、先ほど言及しましたがん抑制遺伝子、DNA修復遺伝子の異常が生殖細胞を通して遺伝し、同一家系にがんが多発する遺伝病です。
スライド左には、がん抑制遺伝子の変異と遺伝性腫瘍の関係が示されています。
一般の人の体の細胞には、母親由来の遺伝子(赤)と父親由来の遺伝子(空色)との対になる同じ遺伝子が2つあります。そして、がん抑制遺伝子の一つに変化しても、@の片方の遺伝子が正常であればがんは発生しません。しかし、Aの両方とも変異しますとがんになります。他方、遺伝性腫瘍では、既に親から遺伝したがん抑制遺伝子の異常があり、@の残っている正常遺伝子に異常が起きればがんが発生します。
 この遺伝性腫瘍は、スライド右に示すがん抑制遺伝子異常、例えばAPC異常による家族性大腸腺腫症やBRACA1、2異常による家族性乳がんによるものが多く、その発病年齢は若く、腫瘍は多発する傾向があります。例えば、ハリウツド女優のアンジェエリーナ・ジョリーの乳がんは、BRCA1/2の異常による家族性乳がんでした。
これらの遺伝子異常は、生後すぐ血液検査で見出すことができます。従って、血液による遺伝子検査は、家系内でがんのリスクを予知し、早期発見、早期治療に役立ちます。

 次に、今世紀に入り、ウイルス由来のマイクロRNA(microRNA、miRNA)が、
がん遺伝子やがん抑制遺伝子等の働きを制御し、細胞の発生、分化、増殖、そして細胞死等の生命現象を調節していることが明らかにされました。ヒトゲノムには、2.600のミクロ RNAあり、がん化促進型miRNAとがん化抑制型miRNAとがあり、それらの異常が、がんの発生、進展、転移に関与します。
 そして、スライドに示すごとく、それらの発現量の異常が、特定ながんに見られ、しかも、早期から血液を含む体液に検出されます。
 現在、小さな分子miRNAが、がんの早期発見やがん治療に役立つバイオマーカーとして注目されています。

スライド6
 ここで、がんの浸潤と転移につて触れてみたいと存じます。
右側のがんの浸潤について、臨床的に、がんが発生母地にとどまっているがんをステージ1、そして、少し大きくなつたがんをステージII,そして、がんが大きくなり浸潤しているがんをステージIII,そして、がんの浸潤が更に進んでがんをステージIVと分類しています。大切なことが、がんのステージーIIからIVでは、右側に示す如く、リンパ節転移や血行性転移を起こすことであります。また、胃がんや大腸がんでは、がんが腹膜に播種して腹水が貯まることがあります。更には、大腸がんの如く、原発巣から肝臓にがんが転移したがんが、肺や全身に転移することもあります。従って、転移を起す前のステージ1あるいはIIの早期がんを見つけることが肝要です。

スライド7
 これは、我が国の2016年度各種がんの罹患数と死亡数を示したものです。
Blueの棒線のがん罹患数では、大腸がん、胃がん、肺がん、前立腺がん、乳がんの順にがん罹患数が多く、赤の棒線のがん死亡数は、肺がん、大腸がん、胃がん、膵臓がん、肝臓がんの順です。特に、がん罹患数に対する死亡率の高いのは、膵癌、胆嚢・胆管がん、所謂難治がんです。

スライド8
 他方、我が国のがん治療は著しく進化し、がんの早期発見・早期治療により
がんは殆ど完治します。スライドは、胃がん、肺がん、結腸癌、直腸癌、子宮がん、乳癌の早期がん(オレンジ色)と進行がん(みどり色)の5年相対生存率を示しています。肺がんをのぞき、他の早期がんの生存率は90%を超えており、進行がんのそれに比較して、生存率は、胃がんで24倍、肺がんで22倍の差が見られます。これらは、如何に早期がんの発見が大切であるかを示しています。
 しかし、我が国のがん検診率は50%以下であり、現在のがん60%強の5年生存率を、今後10-20%高める必要があります。

 がんの完治は、先ほど言及したごとく、内視鏡や画像診断の進歩による早期がんの発見増加によるところが大です。
 しかし、進行がんの場合でも、ロボツト手術や術後管理の進歩、がん患者の遺伝子異常に基づくがん個別化治療やがん免疫療法、更には陽子線或いは重粒子線等のピンポイント攻撃の放射線治療、或いはそれらの併用療法によって、がん患者の延命効果が得られて、多くのがん生存者が社会復帰されています。

 他方、我が地区は、ロータリー戦略計画の重点分野「疾病予防と治療」に相当する「がん予防推進事業」を、2016年度から3年間の地区戦略計画として立ち上げ、「地区がん予防推進委員会」(わがクラブから藤村欽吾委員長、と児玉哲郎会員外地区グループから14名の委員)を設置しました。
 その目的は、我が地区が、最もがん罹患率・がん死亡率が低く、がんの早期発見・早期治療により、がんになっても幸福な生活が過ごせる地域を実現することであります。
 地区全クラブは、「がんを防ぐ新12か条」を掲げ、がんの一次・二次予防の推進、青少年へのがん教育、がん患者の就労支援等を実践し、大きな成果を挙げことが出来ました。それらの業績は、2019年の「ロータリーの友」12月号の特集として掲載され、我々の取り組みが高く評価されたのであります。

スライド9
 このスライドは、「ロータリーの友」2019年12号―特集 元気にR活動を続けよう」であり、我々のがん予防推進活動の3年間の成果が大きく報道されました。

スライド16
 そこで、脇年度になり、「地区がん予防推進委員会」が復活し、これまで2回委員会が開催されました。そして、2つの新しい今後の取り組が決定されました。一つは、スライドの如く、ポリオ撲滅後の新しいRIのターゲトとして、
「がん予防によるがん撲滅」を提言するために、RIの「大規模プログラム補助金(約2億)」の申請計画です。
 その理由は、昨年年2月に発表されたWHOの国際がん研究機関(IARC)による2014年の「世界がんレポート」では、がんによる死亡数は年間820万人、即ち、死因第一であり、がんの発症数は毎年、約11%ずつ増えており、2030年には50%増え、2,200万人に達すると予測されています。
特に注目すべきは、世界のがんによる死亡率の70%は、寿命の延びた途上国に集中していることでありす。
尚、この大規模プログラムには、パトナーの協力が必要であり、既に、国立がん研究センター、広島県、広島県医師会から賛同を得ております。しかし、現在では、コロナ禍のため、このプログラムの具体的な活動はスタートしていません。

 もう一つの取り組は、従来のがん検診に比べて、もっと手軽に、もっと早期に、もっと確実にがんを見つける画期的な検査方法である「リッキドバイオプシー」導入です。昨年8月1日の脇年度第2回地区がん予防推進委員会において、「リキツドバイオプー」について協議した結果、我が地区にその検査方法を紹介することが決定されました。
 「リキッドバイオプシー、Liquid Biopsy、体液生検」は、血液を含む体液中の特定のDNAやマイクロRNAをバイオマーカーとして、がんの早期発見やがんの個別治療に役立てる画期的な医療技術」であります。
 その利点は、スライドの掲げてあるように、採血のみであり、更にがんの状態をリアルタイムに遺伝子情報を得ることができます。加えて、がんのスクリーニング、術後のがん細胞残存の有無、分子標的治療薬の選別、再発の超早期診断、抗がん剤治療の効果判定等に応用できることです。まさに、「血液を利用してがんをみつける」方法が現実化したのであります。
 そこで、我が地区でこの検査方法を実践しているのは、先程、ニコニコで紹介しました広島大学発ベンチャービジネスの株式会社ミルテルであり、「ミアテストプラチナ検査」として、次世代シークエンサーを用いて、血液中のmiRNAなどの小分子RNAを測定・解析しています。そして、健常者とがん患者のデーターから、がんに対する罹患リスクを判定して、早期がんの発見に取り組んでおります。

スライド10 11
 そして、ミルテルでは、男性の12種類、女性の13種類のがんを同時にスクリーニングすることができます。スライドは、ミルテル報告書例であり、がんのリスク判定には、低リスク群と高リスク群と分けて判定していますが、現在これにAIを導入し、より正確な判定を実践することが検討されています。そこで、我が地区において、今後、ミルテル検査を希望される方は、地区当該グループの地区がん予防推進委員(我がクラブでは、児玉哲朗委員(広島中央RC)に問い合わせ下さいますようお願い申し上げます。尚、私の卓話の後、児玉先生から、ミルテル検査のための採血場所等について簡単に紹介して頂きたいと存じます。

 そして、強調したのは、がんの治療率を改善するには、がんの早期発見、がん再発の早期発見、そして自分自身に適した治療薬発見の3点が必要です。
 リキツドバイオプシーは、それら3点に全て活用できる検査方法であり、まさに「血液検査でがんは変わる」時代への扉を開く機会を提供するものです。

スライド12
 忘れてならないことは、「がん予防新12ヶ条」を堅持することであります。2016年度の田原年度から、地区クラブは、この「がん予防“新12か条”」を掲げ、スライドのごとく名刺版の作成、あるいは、例会場に掲げて、がんの予防に取り組んで参りました。今後もわがクラブは積極的に「がん予防新12カ条」に取り組んで頂きたいと存じます。

 

 

 



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