1 医師であるロータリアンやそうでない一般のロータリアンのためにも医療
と刑事事件についての基本的法制度とその実情を話してみたいと思います。
尚、私は広島大学医学部で客員教授を拝命し、いわゆる医事法の講義を為して
います。
2 医療法上の患者の死をめぐる報告義務について
ア 発足の経緯
医療事故に対する刑事司法の介入とこれにより生じた医師法21条の解
釈をめぐる対立があり、これに対する医療側の恐れ・批判と国民世論の動向
があった。制度の理念としては、医療事故の再発防止による医療安全の確保
を目的とする(医療従事者等の個人の責任を追及するためのものではない
〜運輸安全委員会の理念と共通)。
イ 制度の仕組み
(ア) 医療機関の判断による医療事故の調査・報告義務
(イ) 調査・報告の対象
a @医療に起因し又は起因すると疑われる死亡又は死産であって,当該管理
者が当該死亡又は死産をA予期しなかったものとして労働省令で定めるもの
b @につき
「医療」の範囲は,手術,処置,投薬及びそれに準ずる医療行為(検査,
医療機器の使用,医療上の管理など)
c Aにつき
当該死亡又は死産が予期されていなかったものとして,以下の事項のいずれ
にも該当しないと管理者が認めたもの
⒜ 医療従事者等により,当該患者に対して,当該死亡又は死産が予期されて
いることを説明していたと認めたもの
⒝ 医療従事者等により,当該死亡又は死産が予期されていることを診療録
その他の文書等に記録していたと認めたもの
⒞ 管理者が,医療従事者等からの事情聴取又は医療の安全管理のための
委員会からの意見聴取を行った上で,当該医療の提供に係る医療従事者
等により当該死亡又は死産が予期されているものと認めたもの
(ウ) 調査方法
a 厚生労働省令で定めるところにより,速やかにその原因を明らかにするため
に必要な調査を行う
b 病院管理者は,医学医術に関する学術団体その他の厚生労働大臣が定める
団体に対し,医療事故調査を行うための支援を求めるものとする
(参議厚生労働委員会の附帯決議)
事故調査が中立性,透明性及び公正性を確保しつつ,迅速かつ適正に行わ
れるよう努めること
ウ 医師法21条への影響
公式見解では影響はないとされている。ただし,実際上は,医師法21条による警察
への届け出義務が空洞化するであろう。
3 その他
一般法規(広く一般人を対象とする法規)において医師に課せられる義務のうち判例上
で認められている義務
(例)
治療法を実施することが医師に義務づけられるかは,医療水準によって
判断される。医療水準とは,治療に当たった医師が,当該領域を専門とする
医師であるかどうか,医療機関の環境的・地理的要因等を考慮し,当該医療
機関の性格,所在地域の医療環境の特性等の諸事情から個別に判断される
(最判平成7年6月9日)。これにより,地域の基幹病院は,高度な医療行
為を提供する義務を負うことになるし,小さな診療所で診療にあたる医師
は,なし得ることを見極め,早期に患者を転送する義務を負うことになる
(最判平成9年2月25日。同平成15年11月11日)。
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