2017年11月20日

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第1772例会

 

場所 : リーガロイヤルホテル広島
ゲスト卓話「リーダーのひと言」
元NHKスポーツアナウンサー 島村 俊治 様

 

 

 

 

 

 NHK時代,広島で3年間アナウンサー生活を送っており,古葉監督時代にカープが日本一になったとき,日本シリーズの第7戦は私が実況しました。
 現在76歳で,スポーツ実況54年目になります。音楽ディレクターになりたくてNHKに入りましたが,アナウンサーにさせられました。しかし,スポーツ実況をやってみて,スポーツの美しさ,悲しさ,悲惨さ,喜びがくりひろげられ,これは音楽番組と同じようなものがあると感じました。スポーツ実況だったらずっとアナウンサーをやりたいと思うようになりました。
 スポーツには台本がなく,結果が分からないものを伝えますので,1万回近くしゃべりましたが,まだ1度もこれで出来たと思える満足のいく放送をしたことがありません。マイクの前に向かうときは今でも緊張し,第一声を発するまで不安でなりません。ですので,まず,緊張感を集中力に変えて,良い方向に変えていくようにしています。また,しっかり準備をしています。準備をするとあがらないのです。アドリブで話しているように聞こえますが,しゃべっていることの3〜5倍は事前準備をしています。ただ,準備通りにいくとは限りませんので,状況が変わったら対応し修正をすることが必要です。これだけやっていてもまだちょっとだけ失敗をしていて,1度は「私,失敗しないので」という放送をやってみたいと思っています。
 スポーツアナウンサーをやって良かったのは,優れた指導者・選手にめぐりあえたことです。その発言,プレーの中からたくさんのヒントをもらいました。
 私の師匠・大先輩である鶴岡一人さんは,監督として通算1773勝し未だにナンバーワンです。監督時代は「親分」と言われ,ワンマンでおそろしいというイメージがありましたが,一緒にさせて頂くと全く反対でして,人の話を非常によく聞く方でした。しょっちゅう私に「あんたの意見を知りたい。あんたがどう思っているかを知りたい。」と質問してくるのです。コーチや選手から意見を拾い上げて,人の話をよく聞き,大変心を配る方でした。地方の高校野球実況,甲子園実況をやってプロ野球実況ができるようになるのですが,私は3〜4年実況をして少し慣れてきて,いい気になっていました。南海ホークスの試合を実況して,ルーキーとして期待されていたセカンドがトンネルしたときに選手を叱咤したのですが,鶴岡さんは「そうやなあ」と言って,すぐ話題を変えたのです。そして,放送後の反省会で,鶴岡さんから「あんたの言ったことは正しい。だが,あの選手には妻,子,親,友人もある。そういう人がみんな聞いとるんや。それを思ったことがあるか。」と鶴岡さんから言われました。聞いている人への配慮は,放送の基本で一番大切なことなのですが,鶴岡さんはこういうたとえ話で,私にいい気になってしゃべるなと言ってくれたのです。このことはずっと忘れておらず,放送前に思い出しています。
 私は鶴岡さんに「監督とはいかなるものと問われたら,鶴岡さん,どう答えますか」と尋ねましたら,鶴岡さんは「指揮官に決断力なかりせば,部隊は全滅する」と戦争に例えて答えられました。野球の場合は状況が刻々と変わり,その中で監督は常に決断を問われますが,そのときに,成功するかは分からないとしても,曖昧ではいけない・迷ってはいけないということでした。私も決断を迫られることがありますが,曖昧であったり,迷い続けてはダメで,思い切って決断をすると心に浮かべています。
 私のもう1人の師匠は,川上哲治さんです。巨人のV9監督で11回日本一に導きましたが,川上さんはゴルフでも釣りでも負けず嫌いでした。普段はおかしなじっちゃまで,人なつっこいのですが,それを覆い隠して勝負をしていました。川上さんも人の話をよく聞く人でした。会食中に,川上さんはみんなに「今日のカープのピッチャーどう思う?」。「君たちがどう思うか知りたい。」と言ってきました。私からは「川上さんが信頼するコーチはどういうコーチ」ですかと尋ねますと,「答えを持ってくるコーチ」と答えられました。試合途中でピッチャー交替をするときに何人か候補がいるときに,単にそれぞれこういう点があるので監督が判断してくださいというコーチは使わない。最後に決断を下すのは監督だが,今日の試合だったらボールの勢いのあるから、このピッチャーを使いたいというような答えを持ってくるコーチを使いたいということでした。また,川上さんに「監督とはなんぞやと問われたら,川上さんはどう答えますか」と尋ねましたら,「身を捨てる覚悟が必要だ」と答えられました。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれという言葉がありますが,勝ち続けていくなかで,自分自身のためではなく,勝負に勝ちたいという思いで,身を捨てる覚悟でやっていたのだと思います。私は,NHKを退職する頃,その後の人生をどうしようか決めかねていました。そのとき,川上さんに,私の有り方のアドバイスありますかと質問したら,「島村くん,なりきってみたらどうかねえ」と言われました。川上さんは禅の修行をされていましたので,その影響もあってこのように言われたのでしょうが,その後に私も「なりきってみたい」と思うものの,未だに答えは分かっていません。
 ところで,川上さんはイチローのバッティングについて,「わしゃかなわん。あの対応力はできなかった。わしにもできないことをしたのは,イチローただ1人だ」と言われていました。イチローはかつては10年連続200本安打を達成しましたが,私が「どうしてこれだけヒットを打てるのですか。その秘訣は?」と尋ねましたら,イチローは「小さなことを積み重ねない限り,遠くへは行けないのです」と答えました。イチローはネクストバッティングサークルではずっと身体を動かしており,バッターボックスに入ってからの動作もずっと同じルーティンをしています。日々同じことを繰り返すことでしか成果を挙げられないということであり,同じことをやり続けていることが,長く選手生活を続けられているコツなのだと思います。私も,疲れて資料を調べて準備するのをやめようかと頭をよぎることもありますが,イチローの言葉を我が身におきかえて,いつもと同じようにするようにしています。
 このように,優れたスポーツ指導者・選手の言葉には,私たちの生活のヒントもちりばめられていますので,ちょっとだけ気にしてもらえたらと思います。

 

 

 

 



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