2017年06月12日

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第1754例会

 

場所 : リーガロイヤルホテル広島
タイトル : 「街中に映画館がないと、広島は国際平和文化都市とはいえない」
卓話者 :株式会社序破急 代表取締役社長 蔵本順子 様

 

 

 

 

 

 

 どこの業界でも変化や進化があるものです。映画界でいえばシネコン(シネマコンプレックス/複合型映画館)の誕生は、黒船来航と呼ばれたほどです。アメリカ発祥のこのスタイルは、広大なスペースの建物の中に映画館とショッピングセンター(スーパーマーケット)と双方の相乗効果を狙い、しかも巨大な駐車場スペースもあり、それを無料で使用できるシネコンもあります。これが街中にとって影響が大きいのです。デパートなどで買い物をして駐車券をもらっても、たしかに無料に近くはなりにくいのです。シネコンは7から10スクリーン数があり、趣味が違う家族、友人、カップルでさえ、その10スクリーンのちがう作品を選んで観ることができ、ショッピングセンターで買い物をし、食事をし、アパレルから本屋までたいていのお店があるので、時間はいくらだってつぶせます。シネコンの誕生から24年が経ち、アメリカ産の映画館は完全に日本でも市民権を得ています。
 複数スクリーンを同一施設内に集約し、ロビー、売店、チケット売り場、入口を共有していて効率よく合理的です。考えた人は相当なアイデアの持ち主だと思います。映画だけにとどまらず演劇や音楽ライブやスポーツ観戦もでき、全席指定席で野球場のようなスタジアム式シート配列とその魅力は尽きません。見る側の多様性にうまく対応しています。売店にも総力を集結し、その売上もびっくりするほど良いのです。そんなわけでシネコン・ラッシュとなり、全国3600スクリーンの8割強がシネコンであるという現在です。  
 その昔、街中に封切館が宝塚劇場、松竹東洋座、朝日会館、広島東映・ルーブル、スカラ座、リッツ劇場とあったものです。少し前の日本には王道型休日の過ごし方というものが確かにありました。デパートや専門店でショッピングをして、噂のお店で食べたり飲んだり、街をぶらぶら、その中に映画をみるというプログラムが結構組み込まれていました。日がな一日を街中で過ごすことが楽しくかつオシャレでもありました。
 ところがここ10数年、街中から音もなくしずしずと映画館が消えていきました。結局、黒船来航を呼ばれたシネコンにお客様を食われる格好となった広島市内・封切館はすべて閉館を余儀なくされるのでした。私たちの親の世代はよくこう言っていたものです。「草木もなびく本通り」と。「街へ出る」とは八丁堀周辺に行くことです。その街中に映画館がないなんて。私の会社はお金も力もない小さな会社ですが、大きな夢がありました。福屋デパートに入っていた松竹東洋座のあとに、「八丁座」をオープンさせたのは2010年(平成22年)でした。株式会社福屋の大下社長様の寛大なる御協力のもと、実現したのです。
 決して大袈裟ではなく、命がけの挑戦でした。シネコンの台頭の背景があったにせよ、広島市内のど真ん中のロードショー館がすべて閉館になっていったのには理由があるはずです。もちろん全国で同様の現象が起こっていたのです。閉館しているところは一つの共通点があることに気づきました。
 商売のことを「あきない」といいますね。お客様がそのお店(映画館)に、飽きてきていたとすれば大変なことです。50年前と同じつくりの街中映画館は、さすがに無理ですよね。そこにオシャレで合理的でアメリカ・ナイズしたシネコン登場ですから、そりゃいくら街中とはいえ、古くてもう飽きたわ、と感じられ、行く気がだんだんなくなってきますよね。一般的に誰もが新しくして話題のシネコンに行くのが人情というものです。
 そうして考えたのが、(1)映画ファンが運営する映画館をつくること。(2)内装を和風モダンにする。(日本人のDNAをいかす。)(3)椅子をオリジナルでつくる。(4)椅子のレイアウトを見やすくする。(5)上質なスピーカーをいれること。(6)緞帳(どんちょう)をつけること。それは、見たことがない、誰もやらない珍しく、面白く、楽しい、ワクワクさせる映画館をつくるに、ほかなかったのです。京都の映画撮影所に出向き、実際に映画に使用した襖(ふすま)を買わせてもらい「八丁座松の廊下」と名付けて正面に飾っています。堤灯であかりをとり、行灯(あんどん)で案内表示をして…と。何かこう、映画の現場の魂のようなものが形として欲しかったのです。
 国際平和文化都市広島の街中映画館の役割は重要です。世界中の良質な反戦映画をちゃんと、しっかり上映していかなくてはなりません。上映できる自由、観る自由、批評できる自由。その自由の象徴こそが街中映画館なのです。
街とは、都会と呼ばれるに価するには、シネコンが君臨していても「街中映画館」を有している。そんな広島でなくてはならない。街とは説明できない居心地のよさ、さまざまな異色で個性的な店があり、人が足しげく通う非合理的で、非効率的で、無意味で無目的で、無限の無駄があふれかえっていて、時間さえもいたずらに浪費している、それでいいのではと思って、誰かが何かを実行していけば街は再生するのではないでしょうか。言葉を変えればそれが究極の自由、平和ではないでしょうか。
 これからも、地味に激しく細々とあきないをしていければ幸いでございます。

 

 

 



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